植物研究雑誌98巻5号に、カモメヅル属の新雑種イマズミカモメヅルを報告しました。本種は、スズサイコとタチカモメヅルの自然雑種で、茎葉と花において両種の中間的な形質を示します。共著者の中濱直之博士(兵庫県立大・兵庫県立人と自然の博物館)が見つけられたもので、望月がDNAシーケンスや記述を行いました。
カモメヅル属はほかのガガイモ亜科植物と同様に、おしべとめしべが癒合・変形した蕊柱という構造をもつこと、花粉塊をもつということが特徴です。この蕊柱は特殊な形状をしているため、形態や行動の合致した動物(主に昆虫)のみが受粉に関われるという変わった生態をもちます。
この性質のため近縁な植物種間でも異なる送粉者を利用することが多いことから、種間交雑が生じにくく、ガガイモ亜科の自然雑種はまれにしか報告されていません。しかし、例外的に、日本のカモメヅル属では本植物を含めてこれまでに5つの組み合わせの雑種が報告されています。
日本のカモメヅル属植物は多様な昆虫に送粉されますが、種ごとに完全に異なっているわけではなく、花を訪れる昆虫にはしばしば重複が見られます。特に、概ねどの植物でも夜間にガ類が訪花するので、もしかしたらガ類が雑種形成をもたらしているのかもしれません(検証する必要がありますが)。
両親種は状態の良い湿地・草地に分布する植物で、いずれも絶滅危惧植物です。雑種の発見地は農薬不使用の水田の周囲に形成された植物群落で、極めて多様な動植物がみられました。貴重な生物のために大変な労力をかけて管理をされている土地所有者様に敬意を込めて、和名を付けました。
雑種の報告はしなくてもよいケースが多いと思いますが、ことガガイモ亜科植物であるカモメヅル属については、上述のような花の特殊性からもたらされる、自然雑種の少なさ、また、送粉生態学的な示唆が重要だと考えたので、報告することにしました。
望月昂 (小石川植物園 助教)
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