双翅目昆虫―ハエやカの仲間―はたいへん身近な昆虫で、残念ながらあまり好きな人は多くないかもしれません。しかし、植物にとっては、マルハナバチなどのハナバチに次いで多くの植物を受粉している、非常に重要な送粉者(受粉を行う動物のこと)だと考えられています。しかしながら、多くの植物が双翅目昆虫に受粉されていることが分かっている一方で、双翅目昆虫が花の進化にどのような影響を与えているかは明らかではありませんでした。
今回、私たちは、ニシキギ属植物において、キノコバエという双翅目昆虫と花形質の関係性を調べました。日本に産し、暗赤色の花をもつサワダツ、ムラサキマユミ、クロツリバナがキノコバエに受粉されることが先行研究からわかっていたので、これらと系統的にやや離れて、かつ赤い花をもつ北米産のムラサキマサキEuonymus atropurpureusと台湾産のタイワンアズサE.laxiflorusの調査を行い、これらがキノコバエに送粉されることを発見しました。一方で、白い花を持つマユミやマサキ、ツリバナはハナバチや甲虫、大型のハエ類に送粉されていました。
さらに、これらの植物について花のかたち(おしべの花糸の長さ)、花の色、花の匂いを調べました。花の色はハエとハチの色覚モデルを適用し、虫から見たときの見え方を調べました。その結果、キノコバエに受粉される種では、花糸が短く、花が赤く、花の匂いとしてアセトインという物質をもつこと、赤い花と白い花は区別されている可能性が明らかになりました。
これらの結果を、ニシキギ属植物の分子系統樹上で比較したところ、「赤い花・短い花糸・アセトインという花の匂い」が、キノコバエによる受粉と関連しながら進化した可能性が強く示されました。この結果は、キノコバエが独特な花の進化をもたらした可能性を示唆しています。
この研究は、双翅目昆虫が、花の色・かたち・匂いという複数の形質の進化に影響を及ぼしていることを示したことに加えて、被子植物で稀な暗赤色花の花の適応的意義に示唆をもたらしたものです。
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論文:https://doi.org/10.1093/aob/mcad081
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