東京大学大学院理学系研究科附属植物園
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【当園の研究紹介】日本産と韓国産のフクジュソウの分類学的研究
研究・教育活動
2025.05.28

一般的に観賞用植物として知られるフクジュソウ(福寿草)が含まれるAdonis属は、キンポウゲ科(Ranunculaceae)に属し、ヨーロッパから中央アジア、東アジアにかけて分布しています。日本では、二倍体および四倍体の系統を含む4種が確認されています:広域分布のフクジュウソウ(A. ramosa);東北地方〜九州に分布するミチノクフクジュソウ(A. multiflora);四国〜九州に分布するシコクフクジュソウ (A. shikokuensis);北海道に分布するキタミフクジュソウ(A. amurensis)。

過去数十年間の系統分類学的研究により、日本と韓国の間で系統の境界に関する疑問が提起されてきました。 特に、フクジュソウとキタミフクジュソウの日本国外に分布するAdonis属の系統との関係が明らかにされておらず、分類学的な再検討が必要とされていました。

本研究では、日本および韓国のAdonis属種に関する大規模なサンプリングデータセットを用いて、全ゲノム規模の解析を行い、種間の系統関係を明らかにしました。分布、形態的特徴、および染色体数に基づいてサンプルを比較した結果、6つの系統が確認され、それぞれを種として区別できることがわかりました。このうち4系統は日本に分布しています。分子および形態のデータは、これまでキタミフクジュソウとして同一視されてきた日本と韓国の植物は異なる系統に属しており、別種として扱うべきであることを示唆しました。

学名の命名における規則に従い、韓国産の植物をA. amurensisとし、北海道にのみ分布するキタミフクジュソウに新たに学名をつける必要がありました。本田正次(1897年〜1984年)が1939年に、葉の裏面に毛状突起を持つことを特徴とし、北海道北東部に位置する旧地方区分である北見国に固有の変種 A. amurensis var. puberula Honda を記載していました。その時のタイプ標本(基準標本)の2点が東京大学植物標本室に所蔵されており、これらは本研究で扱った北海道産個体と形態的に類似していることが判明しました。そこで、日本・北海道にのみ分布するキタミフクジュソウについて 「Adonis puberula (Honda) Vasques et H.Ikeda」の学名を提案しました。

キタミフクジュソウ Adonis puberula (Honda) Vasques et H.Ikeda

一方、日本のA. multifloraは、A. shikokuensisと姉妹関係にあり、日韓両地域のサンプルが含まれ、形態的な差異が存在することから、今後の研究でさらに検討する必要があります。最後に、日本固有の四倍体種であるA. ramosaは、これまでの研究でも報告されている通り、大きな遺伝的および形態的多様性を示しました。

Diego Tavares Vasques(小石川植物園 特任助教)

論文リンク

https://doi.org/10.1007/s00606-025-01943-4

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